SME RAPID Prototyping & Manufacturing 2002報告

シーメット(株) 萩原恒夫

はじめに

米国シンシナティ市で2002年4月29日から5月2日まで開催されたSMEのRP&M2002に出席した。会はシンポジウムとそれに付属するRapid prototyping (RP) 関連の展示会とから構成されていた。4月29日はチュートリアル(RP全般の基礎あるいは金属溶融堆積Metal Deposition) と地域の企業訪問があった。

シンポジウムは4月30日朝から開始され、その出席者数は基調講演に約230名出席していたことからみると、昨年と同等あるいは1〜2割少ないものと推定され、幾分低調な感がした。一般講演ではRPの未来志向の発表が目立った。

30日の午後から展示会が始まったが、会期を通して昨年に比較して入場者が2割程度少ないとのことであったので、1300〜1400人程度と推定される。これは、RPが低調になったということよりむしろシンシナティ市が内陸部の地方都市に位置するために、出席しにくいことに起因しているものと思われる。来年2003年は再びシカゴ市近郊で5月5日より開催されることになっている。

展示会では意外に鋳造品の展示が多く、砂型鋳造品と石膏鋳造品が沢山でていた。また、光造形を用いるQuick Castも依然多く展示されていて日本との差を感じた。今回からの試みとして、展示場内でのベンダーの説明会が開催された。以下に今年のシンポジウムおよび展示会でのトピックスを著者の独断と偏見で述べる。

シンポジウム
基調講演

基調講演はDoug Hall氏とTerry Wohlers氏により行われた。

1. Doug Hall氏は著名なビジネスコンサルタントであり、いかにビジネスで成功するか、いかに顧客にものを売るかについて熱弁を振るった。営業の人間でなくても大いに参考になった。

2. Terry Wohlers氏はRP業界の1年間の計数と最近のトピックスについて報告した。これをまとめると以下のようになる。

RP市場はモデルの数にすると355万個が2001年に出された(2000年比18%増)。 RPの材料市場は$71Mと報告され、3Dシステムズ社の全世界での売り上げが$121.2Mで、22.5%のシェア、残りは他の企業で$417Mであった。一方、サービスビューロの売り上げが22%減少したことのは単価が低下したものと推定される。ここでも価格競争による生き残りをかけた熾烈な戦いが繰り広げられているものと推定される。

装置では、3Dシステムズ社が2002年の終わり頃には光硬化性樹脂をインクジェットして造形するMulti-Jet Modeling (MJM)を発売する予定である。これは、Objet Geometries社のQuadra TempoというPolyJetシステムとよく似たものになるようである。詳細の提示はなかった。Cynovad社がThermoJetを100台購入し、歯科への応用ビジネスを展開している。Z-CorporationはZ-400を$33.5Kに値下げした。Stratasys社は Dimensionブランドの:安価($29.9K)な装置を別チャンネルで販売を開始した。独のEnvisionTEC社はDLPという面露光装置(1層を10〜15秒で造形)を, 2002年の中頃50Kユーロ($44K)で販売を開始する。PROMETALは190x190x150mmサイズのR2を$150Kで販売開始した。SolidicaはAlの薄層を超音波で接着積層し、CNCで仕上げる装置を, $465Kで販売する。EOS:は Direct Metalで, 20mmの積層が可能となった。Z-CorporationはZ-Castなるセラミックス含有石膏を積層してAl鋳造に利用することを発表した。将来のRPマーケットは、RPからRapid Manufacturing (RM)または3次元プリント(3DP)に移行するという予想を行っている。

一般講演

分科会はDesign & Manufacturing とStrategicの2つに分類されて行われた。しかし、目新しい技術発表はほとんどなかった。光造形はすでに当たり前の技術となり、金属(粉)を積層するものへと興味の対象が移っている。

4月30日の午後は Current RP Tech. & Advancementsのセッションが開催された。ATI社がSLS, SLA, PolyJetについての性能比較を行った。その他、RPのいろいろな局面で利用例についての報告がいくつかあった。また、EOS社の金属粉末の20mm積層やSOMOSの感光性樹脂材料に関するものなど、材料がらみの紹介があった。

5月1日はRapid Tooling、GARPA, Rapid Manufacturingなどについて15の講演があった。RPをどのように使っていくか、あるいはものづくりの中でRPをどのように位置づけるかについての発表が多く見られた。Toolingについてはシリコン材料や金属材料について多くの報告があった。GARPAのセッションではEUを中心にフィンランド、ドイツ、英国のIMSなどによる研究状況の紹介があった。ドイツのFraunhofer Institute for Laser Technologyから、Selective Laser Melting (SLM)による金属部品と型の作成についての発表があった。従来のLaser Sinteringからもう一歩踏み込んだ金属溶融であり今後の技術発展が期待される。ドイツを中心に金属の積層造形が華やかである。

テーマ討議・パネルディスカション

5月2日はテーマを決め討議形式で議題を話し合った。しかし、議長の前もった準備の不足のためかほとんどの人が途中退席した。Discussion Obstacles to Rapid Production Developmentでは、技術的観点、人的観点、組織などについて話し合われた。最終的にはRPユーザの知識の共有化、データベースが今後必要になるだろうとの結論になった。

パネルディスカションではRP業界の低迷について、議論され、材料データの標準化などの必要性について力説された。

展示会

展示会場は比較的ゆったりとして、のんびりとした雰囲気である。昨年より参加企業は2〜3割少ないように感じた(写真-1, 2,3)

1. Stratasys社により、従来とは異なるDimensionブランドで$29.9Kのシステムが発売された(写真-4)。サポートは従来のものとは異なっているようである。これは、3Dプリンター市場を大いに活性化させるものと推定される。

2. スイスの光造形用樹脂会社RPC社は昨年(2001年)に3Dシステムズ社に買収されたが、本展示会では、3Dシステムズ社により、AccuraブランドでAccuGenとAccuDurなる樹脂がそれぞれ発売紹介された(写真-5)。既に販売も開始されていて、今後vantico社と正面衝突が予想される。また、カナダの樹脂会社がSOMOS樹脂コンパチブルのTUXEDEブランド樹脂を半額で紹介していた。エポキシとカーボネートを分子中に有し、特許的にも問題ないと言っていた。

3. 3Dシステムズ社はMulti-Jet Modeling システムなるThermoJetの発展した光硬化性樹脂を吐出し、硬化させて3次元造形物を作成する3Dプリンターに類別される装置を発表した。この装置はObjet Geomerties社のPolyJet (写真-6)に近いシステムと推定されるが詳細は示されていない。2002年の終わり頃市場に登場するとのことである。3Dシステムズ社は3Dプリンターから、ハイエンドのものづくりのためのRP機、果ては材料まですべてを製品に取りそろえることにより、ものづくり総合企業を目指しているものと推定される。その他のRP装置メーカは特徴のある機種に限定した専門メーカであり、両極端な歩みである。

4. 昨年発表されたPROMETALは合計で3種類のシステムを発表すると共に多くの金属造形モデルを展示していた(写真-7)。最小のR2(写真-8)は造形サイズ190x190x150mm、中型のR4は400x400x250mm、大型のR10は1000x500x250mmであり、本展示会にはR2とR10が展示されていた。材料はステンレスと真鍮(SS+Bronze)、またはニッケル金属粒子を利用したものであり、Near Net Shapeの流れの中に強く印象づけている。今後の発展が期待される。DMS東京2002に出品されるとのことであった。

5. 日本からは、インクス社が初めてSMEの展示会に登場した。データからRP製品までのトータルなものづくりを、薬局での処方箋から製品までに至る流れによりモデル化して展示していた。ユニークな展示とものづくりの新しい流れの展示であり来訪者の興味を集めていた。

6. Z-Corp.社は昨年Euromold2001(フランクフルト)で発表した大型のZ-810の展示と共に、このシステムを利用した石膏粉に耐火物粒子を混合系によるモデルの鋳造への適応が提案されていた。Z-Corp.社のToolingへの志向が強く認められる。また、vantico社と材料の共同開発も行われているようである。

7. Stratasys社、3Dシステムズ社、DSM-SOMOS社等もRapid Tooling (RT)、 RM への志向を強く打ち出し、RPからRTへの志向、さらにはRMへの流れが今後より一層強くなるものと推定される。

RP&M2002展示会場風景

会場風景1

会場風景2

会場風景3

Stratasys社Dimension機

3Dシステムズ社Accura樹脂

QUADRA Tempo (PolyJet)

PROMETAL造形物

PROMETAL R2

インクス社ブース風景

Z810による鋳造型と鋳造物

 

まとめ

1. RPは材料がキーポイントであるとの認識のもと、光造形用樹脂の開発が進んでいることが随所に見られた。後2〜3年すると光硬化性樹脂の性能は様変わりする可能性が出てきた。

2. 金属粉末や金属薄層の積層によるNear Net Shapeはより一層盛んになって来ている。

3. 来年はシカゴ郊外とのことであり、材料の進歩が楽しみである。日本のユーザの方々も参加して世界のものづくりの動向を自分の目で見てほしい。

参考資料

RAPID Prototyping & Manufacturing 2002, Official Event Directory, April 2002, SME Rapid Prototyping Association

本報告は「型技術第17巻、第9号22-27、2002に掲載されたものをHTML化したものである。