光造形、樹脂からみた最近の開発動向(2001.11)
シーメット株式会社
 萩原恒夫
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はじめに

光造形法とは、3次元CAD上で入力された形状データ用いて、機械加工することなく、一層ずつ液状の感光性樹脂を積層しながら立体モデル(3次元モデル)を直接生成 (3次元積層造形) することを指す。今日、自動車、家電およびこれらの関連企業はもちろんのこと、すべての製造業にとって、「いかに製品の開発開始から出荷までの時間を短縮し、コストを限りなく削減し、消費者のニーズに合った品質の良い製品を、安価に迅速に送り出せるか」が生き残りをかけた大きな命題となっている。このことに光造形システムが大きく寄与すると認識され、注目を集めている。これは一方、光造形システムを用いるために不可欠な

・ 3次元CADシステムの普及したことと、
・ 光造形装置の機械的精度が向上すると共に、造形物の精度が向上した、
・ 使用できる樹脂材料の種類が増え、応用範囲が広がった、

ことにもよる。

今日では、光造形システムのみならず、熱可塑性樹脂を押出し積層する方式(FDM)、粉末の溶融接着積層方式(SLS)、紙を薄膜積層する方式(LOM)、粉末を吐出させ積層する方式(Ink-Jet法)、などの各種積層造形方式が上市されている。これらは総称してラピットプロトタイピング(RP)システムと呼ばれている。

本解説ではRPシステムの中でも光造形システムとその材料である感光性樹脂について最近の開発動向を述べる。

1. RPシステムの設置状況

国内のRPシステムの設置実績台数を3次元CADの普及と共に図-1に示す。1999年は景気低迷で伸び悩んだが、2000年には確実にその設置台数を伸ばした。図から解るように、RPシステムの販売台数はCADシステムの伸びにほぼ対応しており、RPシステムと3次元CADが密接な関係にあることが解る。日本は米国に比較して3次元CADの普及数は1/4〜1/5と言われており、これが直接RPシステムの普及に反映し、米国の1/4〜1/5程度の普及に止まっている。概ねCADが200 シートに対してRPシステム1台という構図になっている。日本の工業生産は米国の1/2と言われているので、この点を考慮すると現状の2倍までは確実に増えていくものと考えている。さらに、パソコンベースの3次元CADが原動力となって、急速に広まるものと推定している。 

図-1 RPシステムの設置実績台数と3次元CAD数

図-2 世界のRPシステムの導入実績(Wohler Report 2001)  

                 

一方、海外のRPシステムの導入状況は、Wohlers Report 2001によると、図-2のようになっており、1998年に一度伸びが落ちたが、その後は順調に推移している。しかし、必ずしも順風満帆ではない。2000年にはキュービタルとヘリシスが相次いで撤退を表明した。幸いヘリシスはキュービックテクノロジー社と豊田工機がその事業を継続した。また、日本でも老舗のNTT-Data CMETの株式の大半を帝人製機が購入し企業再編成が開始された。2001年になるとさらに、米国のDTM社を3Dシステムズ社が買収することが発表され業界再編成が加速された。また、材料では3Dシステムズ社と長い間協力関係にあった旧チバのvantico社とが別々の道を歩むことが発表された(2001年5月)。今後さらにRP業界は再編成が進むものと推定される。

2. 光造形法の原理

光造形法では、まず、コンピュータ上の3次元CADという立体デザインシステムによって成形したい物品の立体形状を設計する。次いで、このCADモデルをSTLフォーマットに変換する。STLとは3次元自由局面を三角バッチの集合体で近似する方式で、CADから積層造形装置にデータを渡す場合に広く用いられている(ここまでがCAD側の処理、以後は造形装置側の処理)。次いで、目的モデルの造形装置内での配置や積層方向(モデルの置き方:正立、倒立、横転など)を決定し、STLフォーマットからなる3次元形状データをZ軸方向に厚さ 0.1mm 〜0.2mm 程度の輪切り状にスライスする。その一層ごとを光硬化性液状樹脂を硬化させて積上げていくことで3次元立体モデルを得る。

 実際の操作では、スライス断面のデータに、サポートを配置し、レーザ走査速度、出力、リコーティング回数、オフセット量、収縮率などの各種パラメータを設定する。先ず、第1層目を硬化させる場合は、プラットフォーム(テーブル)を0.1〜0.2mmの硬化厚さだけ下げ、液状の光硬化性樹脂をテーブル上に供給し、所定厚みの樹脂層を形成させる。 次いで、断面データに基づいてレーザ光強度を調整して樹脂表面に、レーザ光を走査させながら照射して光硬化性樹脂層を硬化させる。この操作により第1層目の硬化層が形成される。すると、光照射された部分の樹脂が薄く固まって断面データに対応した硬化樹脂層が形成される。 この照射終了後テーブルを1層分だけ下げ、再び同様な操作を繰り返し樹脂層を形成させる。その上から同様にレーザ光を走査して照射し第2層目を形成する。

図-3 3次元造形法(光造形法)の原理 

第2層目の照射エネルギーは第2層目を積層厚み分だけ硬化させるためのエネルギーより若干大きくすることにより、第2層と第1層の層間を化学反応により強固に接着させ、均質な硬化層として積層させる。この操作を繰り返すことによりn層まで積層する。全層の硬化が終了すれば、プラットフォームを最上段まで引き上げモデルをとり出す。洗浄の後ポストキュア装置で最終硬化させ、不要なサポートを取り除き、必要に応じて研磨などを行い仕上げる。硬化樹脂層の1層の厚みを極めて薄くすれば高精度の成形を行うことができ、比較的厚くすれば高速(短時間)で造形を行うことができる。テーブルより大きなモデルの場合は分割して造形し、つなぎ合わせることで一体ものを製作することができる。

2.1 光造形用樹脂市場

光造形用樹脂の市場は2001年現在世界で約20億円弱の市場と推定される。今後5年間で25〜50%の伸びを推定すると、2006年には約30億円規模と見積もられる。市場規模からみるとそれほど魅力的な市場ではない。米国では市場がある程度オープン化しているが2001年8月のスイスRPC社の3Dシステムズ社の買収から予想されるように、むしろクローズ化も予想される。その理由として世界的にみてもかなり小さい市場で、樹脂開発への投資が難しいことと、装置メーカが顧客に密接に結びついていることが挙げられる。世界で100億円以上の市場となれば、活発化し、多くのメーカの参入が起こり、低価格化が進むと思われる。そのためには、システム開発以上に材料開発が欠かせない。

2.2 光造形用樹脂の類別

ラジカル重合タイプのウレタンアクリレート系とカチオン重合反応タイプのエポキシ系の二つに分類される。ウレタンアクリレート系樹脂ではラジカル反応で進行するため、一般的に反応速度は大きいが重合がランダム性になりやすいことより、造形物がソリや精度の点から不利と言われている。しかし、ウレタン骨格はイソシアネート成分とアルコール成分とから容易に新しいものが合成可能であり、硬化後は高分子主鎖中のウレタン基により分子間凝集力の大きいものが得られやすいことから、高分子主鎖中にポリエ?テル基を有するエポキシ系樹脂に比べ機械特性、および熱的特性に有利と考えられる。

エポキシ化合物の重合反応はスルホニウム塩等の光分解から誘導されるカチオン(プロトン)により開始される。このカチオン重合反応は、重合速度は劣るが、逐次重合性の要素を持っており、得られる重合硬化物の収縮歪みが小さな傾向がみられる。そのため、造形物の寸法精度が有利であると信じられ、最近特に広く用いられるようになった。しかし、エポキシ系樹脂の場合には選択できるエポキシ化合物の数が極端に制限されるとともに、人体への安全性や重合速度の点から使用できる主剤は特定の脂環族エポキシ化合物にほとんど限定されている。

光造形用樹脂は当初、旭電化を除きウレタンアクリレート系樹脂でスタートしたが、現状では精度の点からエポキシ系が主流になりつつある。ウレタンアクリレ?ト系の樹脂は、先に述べたように剤の選択範囲がエポキシ系樹脂に比較して圧倒的に大きく、機能性を要求されることが益々強くなることから今後の開発次第では立場が逆転することもあり得る。

2.3 光造形用樹脂の開発動向

ユーザは造形により得られる樹脂硬化物を直接利用するため、その物性や性質が最も重要である。光造形法のキーポイントはその光硬化性樹脂の性能にあるといっても過言ではない。

業界別に利用するプラスチック材料をみると、自動車ではポリプロピレン(PP)やナイロン、家電業界ではABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、精密機械ではPC、ABSなどが重要である。光造形システムをはじめとするRPシステムはこれら業界に主に用いられコスト削減に活躍している。ことことを鑑みると光造形用樹脂に求められる性能は、ABS性能、PP性能、PC性能である。これら樹脂を手本に光造形用樹脂の開発が行われる必要がある。

モデル用樹脂として、これまでABS樹脂を一つの目標として開発が進められてきた。このABS樹脂は物性のバランスがとれていてかつ成形性もよく安価なため家電製品の筐体などに広く利用されている。

樹脂の重要性が認識され開発者がかなりな精力を注入しているにもかかわらず、市場にある光硬化性樹脂の硬化物の性能はいまだ目標のABS樹脂には到達していない。また、モデル用樹脂がエポキシ系樹脂を中心としていることより概して脆く、光造形物は「壊れやすい」という通説が出来てしまった。これをうち破るために靭性に優れたPP性能の樹脂を積極的に提供しようとする動きが樹脂メーカ各社から出てきた。旭電化工業からはHS-681、帝人製機からはTSR-821、JSR社からはSCR-9100シリーズ、vantico社(旧チバ・スペシャルティー・ケミカルズ)からはSCR-9100シリーズと外観が非常によく似たSL-7540が出た。これらの材料は今までになかった靱性を備えていることより概して歓迎されている。しかし、これらは全てエポキシ系であり、靭性の観点からみるとまだPPの特性には至っていない。一方、著者らはTSR-1938Nを三菱レイヨンと共に開発し市場に投入した。このものはウレタンアクリレート系の樹脂であり、エポキシでは達成し難い、強度と伸度とを兼ね備えることから、ウレタンアクリレート系材料が再び脚光を浴びるものと考えられる。さらに性能の高いPC樹脂、ナイロン樹脂に至っては、ほとんど開発が進んでいない。今後の開発者の努力を期待する。

2.4 実部品製造の試み

光造形システムの応用展開のために筆者らはこれまで、射出成形用の光硬化性樹脂TSR-750シリーズ、耐熱モデル用の樹脂TSR-900シリーズを開発した。この目的をさらに押し進め、光造形システムでなければできないような複雑なモデルを造形し、実用的な部品に用いようとする試みを始めている。これは、光造形によりCADデータから直接得られるモデルを実際の製品にしようとするものである。すなわち、光造形システムを製造機に位置づけようとするものである。現状では、光造形で得られる硬化物は必ずしも所望の性能を有していない場合が多いが、筆者らが開発したイミド系樹脂は、この目的のための第一歩といえよう。日立製作所の三宅らはこのイミド系樹脂を用いることにより、水質試験器の心臓部であるマニュホールド(図-4)に光造形品が使用できることを最近発表した。光造形品を用いることにより従来法に比較して製品サイズを約1/120にした水質試験器を商品化した。この装置は同時に価格も数分の1以下になっている。このように、光造形品を直接部品に用いることにより今まででは考えられなかったような技術革新をもたらす。光造形を代表されるラピットプロトタイピング(RP)システムはやがてラピッドプロダクション(RP)システムあるいはラピッドマニュファクチャリング(RM)システムとして使われることと思っている。筆者らは、今後、更にイミド本来の性能である耐熱性も優れた材料を提供すべく、新規原料のデザイン及び合成検討を行っている。これらの材料が比較的安価に入手できるようになるとイミド系樹脂は光造形システムを製造機に位置づけるもの考えている。

図-4 水質試験機のマニュホールド

3. 今後の方向

我々は樹脂開発のコンセプトとして

(1) 魅力ある材料、(2) 独創性のある機能材料の提供を主眼において開発を進めている。高精度・万能モデル用樹脂としてはABS性能、靱性材料としてはポリエチレン(PE)、PP、ポリ塩化ビニル(PVC)性能の材料、耐熱樹脂としてはPOMやPC、そしてナイロン性能の材料を目標にしてその性能向上を行っている。つまり、光造形用樹脂でエンジニアリングプラスチック、最終的にはスーパーエンジニアリングプラスチックをねらっている。これらを開発することにより、光造形法が当たり前の技術になり、製品開発にそして、実用部品の生産に大いに利用され、システムの爆発的普及につながるものと期待している。

参考資料

1) 中川威雄、丸谷洋二編: "積層造形システム - 三次元コピー技術の新展開"、 (工業調査会、 1996)
2) T. Wohlers: "Wohlers Report 2000、 2001"、 (Wohlers Associates、 Fort Collins、 Colorado、 2000、 2001)
3) 帝人製機(株): "SOLIFORMカタログ"、 (2000年6月)
4) 田村順一、萩原恒夫: "光造形法の樹脂開発からみた今後の展望"、 オプトロニクス、 No. 4、 pp. 119-125 (1996)
5) 三宅亮、榎英雄、森貞雄、石原民雄: "マイクロファブリケーション技術を応用した小型水質計"、 ケミカルセンサ研究会 、 (電気学会、 東京2000年4月28日) CHS-00-7
6) シーメット(株): "会社案内/製品カタログ"、 2001年
7) 萩原恒夫: "光造形システム、現状と今後の展開"、 JETI、 vol. 48 、 No.11、 pp. 70-74、 No.12、 90-95 (2000)
8) 萩原恒夫: "光硬化性樹脂を用いる光造形法とその応用"、 光学、 vol.30、 No.1、 pp. 248-252 (2001)
9) 萩原恒夫: "ラピッドプロとタイピングの最新動向"、 機械と工具、 別冊、 2001年4月
10) 萩原恒夫: "光造形システム「SOLIFORM」と「SOUP」"、 型技術、 vol.16、 No.10、 pp. 24-28 (2001年9月号)
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本解説はプラスチック成形加工学会セミナー 2001.11.16に提供したものである。