光造形法による試作用金型の開発動向
シーメット株式会社
萩原恒夫

1. はじめに

光造形法は、20年ほど前(1980年)に当時名古屋市工試の児玉氏により発明され、その後米国の3Dシステムズ社やシーメット社により開発・実用化された。その後、各種3次元積層造形法(ラピッドプロトタイピング=RP)が開発され今日の隆盛となった。

今日、すべての製造業にとって、「消費者のニーズに合った品質の良い製品を、開発開始から出荷までの時間をいかに短縮し、コストを限りなく削減し、市場に安価に迅速に送り出せる」かが大きな命題であり,このことに光造形システムが大きな役割を果たしている。これは、光造形システムに不可欠な

・ 3次元CADシステムの普及
・ 光造形装置の精度が向上すると共に、造形物の精度が向上
・ 使用できる樹脂の種類が増加したことと性能が向上したことにより、光造形システムの応用範囲が広がったことに他ならない。

この光造形システムの果たす役割は、a. デザイン評価(形状確認)や 機能評価、b. 真空注型や鋳造用のマスターモデルの作成、c. 実部品への適応、d. 医療応用分野などが挙げられる。さらに、e. フィラー強化樹脂を用いる光造形法による直接射出成形用試作型の作成が可能であることが提案されてから、ラピッドツーリング(RT)の方法としても大いに注目されている。

本解説では光造形システムを用いた試作型の作成についてその特徴と応用および、最新動向について述べる。

2. 光造形法による型

 光造形法とは、3次元CAD上で入力された3次元ソリッドデータをSTLフォーマットに変換した後、積層厚みにスライスして断面データを作成し、このデータに基づきに液状の光硬化性樹脂を紫外線レーザ光を照射して選択的に硬化させ、一層ずつ積層することにより所望形状の3次元立体造形物を得るものである。

この光造形法がさらに産業界で貢献するためには、本来の形状確認用モデルの製作にとどまらず、モデル自身が機能を有し、広範な用途に展開可能なことが重要であると考える。この展開として光造形物を出発点とする型の製作が挙げられる。

プロトタイピング(試作)からマニュファクチャリング(生産)へはどうしても型の作成を避けては通れない。製品開発からみると強度や耐久性、感触などを検討する上で、できるだけ実際の材料で確かめることが重要である。そのために試作金型を製作し評価用の成型品を評価のための数だけ得ることは重要である。その評価結果を製品開発および金型製作のために活かすことは開発期間短縮のために極めて重要である。このツールとして光造形法が大いに役立っている。一方、アルミの高速切削も試作金型を得るための方法として最近注目されているが、両者は競合関係ではなく、むしろ補完関係にあり、それぞれの特徴を生かした使い方で利用されている。

3次元積層造形法を用いて成型用の型を簡易に製作する技術はラピッドツーリングとも呼ばれて、一つのジャンルを形成するに至っている。

光造形を利用した型製作では

(a) 光造形モデルをマスターとした型の作成
(b) 光造形法で直接射出成形型の作成。

などが挙げられる。そのためには硬化樹脂の物性や性質が最も重要である。マスターモデルとして利用したとき、真空注型型の作成の場合にはシリコーンゴム型に転写時の耐熱性、ロストワックス型には消失(焼失)時の灰分(アッシュ)量、金属エポキシへの転写にはその仕上げ性、さらに、直接射出成形型の作成には耐熱性、寸法精度などが重要な要素である。射出成形型としての本格的な金型には、

・機械的強度 500Mpa以上
・寸法精度 0.01mm以上
・表面粗さ 1mm以上

を同時に満足しなければならない厳しい条件が求められる。ところが、光造形を経由する金型ではこれらの条件を必ずしもすべて満たすことはできないのが実情である。従って適応に限界があることを意識して利用することも大切である。限界をうまく利用することにより開発を短縮できれば利用価値が大きいものである。

2.1 光造形モデルの転写による型の製作

(i) シリコーン注型型への転写

3次元CADでデザイン・設計したモデルの複製を、できるだけ早急に十数個程度入手したいときなどには、シリコーンゴム型による真空注型法が極めて簡便で有効である。この真空注型にはウレタン樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。マスターモデルとしては光造形で作成したモデルが精度の点から好んで用いられている。

詳しくは、図−1a,b [(株)三ツ星ホームページ: http://www.kk-mitsuboshi.co.jp/] に示すように、光造形法で得たモデルをマスターに用い、シリコーン樹脂で母型(真空注型型)を作り(1〜7)、この母型に前記熱硬化性樹脂を流し込みレプリカを作成する(A〜G)のである。この場合、一つの母型から10〜20個作成できるので、母型を10個程度用意すれば100〜200個のレプリカの作成が理論上可能となる。

削り出しでマスターモデルを作成するのと比較して、マスターが精度よく短時間で得られることより、注型品も高精度で短時間に得られる。また、注型材料に着色を施したり、注型品に塗装を施すことが可能であり、仕上げてしまえば最終製品と全く区別がつかなくなる。家電製品や情報機器分野では光造形品はもっぱら真空注型のためのマスターとして用いられている。日本では光造形品が単なる形状確認に用いられことは稀であり、半数を超えて真空注型のマスターモデルに利用されている。

真空注型法の欠点としては、レプリカをとるのに1〜2時間程度時間がかかるため、100〜200個も作成する場合にはかなり手間がかかる。また、得られるレプリカはABS樹脂などの熱可塑性樹脂を用いる製品(商品)とは異なる材料のため最終的な機能試験などには直接利用出来ない。

図−1aシリコーンゴム型の作成

図−1b真空注型によるレプリカの作成

 

(ii) ロストワックス法のマスターモデル

光造形モデルをロストワックス法のワックスの代替モデルとして使用することによりワックス作成用の金型が不要となるために、大幅な工数の削減が可能となる。しかし、光造形モデルでは焼失(消失)の際に残さが少量残ってしまうため品質の低下を招くことがある。

山梨の名工では宝飾用に特化したシステムを開発するとともに、焼失法を工夫することにより大いに利用されており、特に国外に多数のシステムが出荷されていると聞いている。光造形モデルのロストワックスへの応用では、システムの開発とともに材料やそのそのため方法(ソフト)の開発により従来のワックスを用いる方法からRP法への転換が可能となる。

3Dシステムズではクイックキャスト法を実用化している。内部をハニカム状にして得た光造形品をマスターモデルにして焼失を容易にするとともに、熱によるモデルの膨張を抑え型割れを防止している。クイックキャストモデルをセラミックスで何層にもコーティングし、炉の中でこのモデルを焼失させ、同時にセラミックスを焼き固め型を作成する。インテークマニホールドなどの自動車部品を得た例が報告されている。

(iii) 木型代替としてのマスターモデル

鋳造のためのマスターモデルや砂型用のマスターモデルなど、木型の代替として3次元造形モデルは実用化されている。光造形システムで作成された樹脂モデルが砂型製造のマスターとして用いられる場合は十分な精度と耐久性が確保されている。しかし、木型が本来果たしてきた大きなモデルに関しては、光造形法ではコストの点から採用を見合わせる場合が多い。張り合わせや切削とでは果たせない高精度が要求されるところのみで採用されている。

(iv) 金属エポキシ樹脂型への転写

光造形モデルをマスターとし、アルミ粉末を多量(75wt%程度)に含むエポキシ樹脂(メタルレジン)で簡易型を作成し、この型で射出成形を行う方法がある。この方法では、型の耐熱性(荷重たわみ温度=HDT 250℃以上)と強度(曲げ強度98MPa)がある程度保証されており安心して200〜5,000ショットの成形可能である。しかし、光造形モデルをマスターに用いてこの型を作成しようとする動きは当初に比べてかなり下火になってきた。その理由としては転写の操作が行われるので精度が若干劣る傾向があり、最終ユーザに嫌われたためと推定される。しかし、簡便で確実であるため、比較的大型の成型物作成では現在でも積極的に利用して、プロトタイプを作成しているサービスビューロも少なくない。

金属エポキシ樹脂型作成の流れは以下のようになっている[図−2参照、(株)モルテック: http://www.moltec-rp.co.jp/より]。

(1) 成形品と同じ形状のマスターモデルを作成する。
(2) 用意したマスターモデルに、パーティングを施す。
(3) 型枠を配置してメタルレジンを流し込む (キャビ側) 。
(4) メタルレジンが硬化したら、型枠を外す。
(5) 裏返しにして型枠を付けメタルレジンを流し込む(コア側)。
(6) メタルレジンが硬化したら、型枠を外す。
(7) マスターモデルを取り外し、キャビティとコアが完成する。
(8) 射出成形のためのモールドベースに組み込んで樹脂型が完成する。

図−2 金属エポキシ樹脂型の作成の流れ

2.2 光造形モデルを直接、射出成形型に利用

光造形法は、液状の光硬化性樹脂組成物に紫外光を照射して光硬化反応を行いながら3次元物体を得る。この光造形物が十分な強度と耐熱性を有すれば金型として利用可能と考え、筆者らにより初めて射出成形型(ダイレクト型)製作に直接応用された。田村と萩原は1993年頃から、光造形法の用途開発の一環として開発研究を行ってきた。その結果、帝人製機のフィラー強化樹脂TSR-750シリーズとして結実した。当初120℃程度の耐熱性を有していたが、改良を重ねて今日では300℃を超える材料も上市されている。

1995年4月にフィラー強化光造形用樹脂(TSR-752)で作成した型が、ABS等の汎用プラスチックスを100〜200個程度射出成形できることを初めて示した。このことは、光造形装置がいわゆるラピッドツーリング(RT)の装置として利用できることを初めて証明したものである。このものは、TSR-753、 754と発展していった。フィラー強化樹脂TSR-754はHDTが250℃以上を有し、比較的低粘度で沈降性が改善されて使いやすいものとなった。TSR-754を型材として用いることによってフィラー入りPBT、SPS、ナイロン46等のエンジニアリングプラスチックスの射出成形が可能となった。

超耐熱性のTSR-1971は、HDTが300℃以上を示し、曲げ弾性率が鋼のそれに匹敵し、また、熱線膨張係数がきわめて小さいために、型材としても極めて有用な材料である。TSR-754との比較では、たとえばPBT樹脂の場合、2倍以上の成形物が得られた、また型の抜き勾配を本型に近い1°程度にすることが出来たことより、広範な熱可塑性樹脂で成形が可能と考えている。2001年にはこの技術は帝人製機からシーメット社に引き継がれ、TSR-2081としてエポキシ樹脂をベースとする型用樹脂が上市された。このものは、通常刃物での切削が可能で、適度な耐熱性(120℃)を示し、汎用樹脂の成形を可能としている。

帝人製機に引き続きJSR社もこの材料分野に参入している。最近JSR社の三井等は、この直接型の利点を紹介している。成形物を得るまでの期間が1/4〜1/5に短縮され、費用対効果も大きいことが詳細に報告している。

光造形で得るダイレクト型の精度はほとんど金属金型のレベルにまで達している。また、精度が高く極めてサイズの小さい型の製作が容易であるため、切削による金属金型の作成が困難なところに適応可能である。しかし、逆に大きな型や深いものはあまり得意としていない。(株)モルテックはこの技術の有用性に着目して積極的に技術の普及に努めている。

光造形によるダイレクト型の作成は図−3の様になる。製品(成形品)の3次元CADデータを作成する(a)。次いで、3次元CADデータをもとにパーティング面を作成し(b)、キヤビティ・コアを作成する(c)。STLデータを出力して(d)、光造形装置で造形し射出成形型を得る(e、f)。この型をモールドベースに組み込み完成する。この射出成形型を用いて成形を行う。

現時点での光造形によるダイレクト型の課題は、熱伝導率が金属より大幅に悪いため、型温をコントロールするため射出成形サイクルが長くなる。材料の機械的物性に改善の余地がある。精度の向上、積層段差の解消のための表面処理技術の確立が必要である。

課題を多分に含んではいるが、既存のいろいろな技術と組み合わせてうまく使い分けることにより工期短縮、コスト削減が可能となる。さらに、課題点が解決されればより普及していくものと考えている。

図−3 光造形で型を作成するフロー [(株)モルテックホームページより]

図−4 シーメット社の光造形直接型とその成形物(TSR-1971樹脂による型とPP樹脂成形物)

表−1 各社の光造形法による直接射出成形型用樹脂とその物性

製造会社

帝人製機
帝人製機
帝人製機
帝人製機
帝人製機
JSR
JSR
OptoForm*

銘柄

TSR-752
TSR-753
TSR-754
TSR-1971
TSR-2081
SCR-801
SCR-802
OptoForm50

ベース樹脂

UA**
UA
UA
UA
エポキシ
エポキシ
エポキシ
?

粘度(mPa)

49000
35000
25000
49000
3000
4800
4800
ペースト状

比重

1.8
1.7
1.7
2.1
1.55
1.59
1.59

引張強度(MPa)

75
83
89
101
88
84
85

破断伸度(%)

1
2
1.4
1.4
2.1
2
2

引張弾性率(MPa)

13850
15680
16700
24600
7800
9210
9200

曲強度(MPa)

97
118
145
170
153
127
120

曲弾性率(MPa)

14300
15680
16.9
26600
10420
8920
8500

熱変形温度(℃)

120
250
250
>300
120
250
250

特徴・用途

耐熱モデル、型
耐熱モデル、型
高耐熱モデル、型
型、超耐熱モデル

上市時期

1995年
1997年
1998年
1999年
2001年
1997年
1999年
2000年
* OptoForm: フランス、2000年に3Dsystems社が買収
** UA: ウレタンアクリレート 

3. あとがき

筆者らは、光造形法をラピッドマニュファクチャリング(RM)のためのラピットツーリング(RT)の中核として位置づけている、そのための材料を積極的に開発してきた。このRMのための光造形用樹脂をそれぞれのステージに合った形で配置している。光造形法から発展したRT技術は、まだ、改善の余地を多分に含んでいるが、今後、RMに至る当たり前の技術にするために、材料の改良と、手法の開発を行って行く予定である。材料だけでは解決できない場合、うまく使いこなすためのエンジニアリングも同時に必要である。結果として、コストの低減や開発期間の短縮が可能となると考えている。

参考資料

1) 丸谷洋二: OPTRONICS, No.11, pp. 186-192 (2000)
2) 丸谷洋二: OPTRONICS, No.1, pp. 276-281 (2001)
3) 三井宗洋ほか: 型技術, vol.15, No. 8, pp. 54-55 (2000)
4) シーメット(株): "会社案内/製品カタログ", 2001年
5) (株)モルテック: "会社案内", 2000年、2001年
6) 萩原恒夫: "光造形システム、現状と今後の展開", JETI, vol. 48 , No.11, pp. 70-74, No.12, 90-95 (2000)
7) 萩原恒夫: "ラピッドプロとタイピングの最新動向", 機械と工具, 別冊, 2001年4月, pp. 78-81 (2001)
8) SME,RP&Mシンポジュウム要旨集(CD-ROM版), (SME, シンシナティ2001年5月15-1日)
9) 萩原恒夫: "光造形システム「SOLIFORM」と「SOUP」", 型技術, vol.16, No.10, pp. 24-28 (2001年9月号)

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本解説は「成形加工」2001年12月号に掲載されたものをHTML化したものである。