光硬化性樹脂を用いる光造形法とその応用

萩原恒夫 帝人製機(株)オプトイメージカンパニー
  Laser Stereolithography and Recent Topics of the Application Tsuneo Hagiwara Opto-Image Company, TEIJIN SEIKI Co., Ltd.


1. はじめに
 液状光硬化性樹脂を用いた3次元光造形法(ステレオリソグラフィー)は、1981年小玉秀男氏(当時名古屋市工研)によって基本コンセプトが提唱され[1,2]、その後、1984〜5年にかけて、米国のUVP社(後の3Dシステムズ社)のC. Hull氏および大阪府立総研の丸谷洋二氏(現大阪産業大学教授)によりに実用化の成果が発表された[3-5]。1987年には3Dシステムズ社により世界初の実用機 SLA-1の製品化が発表され世界的に注目された。翌年、三菱商事により丸谷氏の技術に基づきC-MET社が設立され、SOUPシステムが発表された[5]。最近では、IT技術の台頭と3次元CADの普及に連れて、自動車産業界、家電産業界などの基幹産業分野を中心に光造形システムが急速に採用されるようになった[7-8]。
 本解説では、光造形の概要を述べるとともに、最近話題になっている実部品への展開、医療分野での用途などについても述べる。

2. 光造形の原理
 光造形では、図-1に示すように、まず、コンピュータ上の3次元Computer Aided Design (CAD)システムにより作成したい物品の立体モデルを設計し、この立体モデルデータを立体造形用データフォーマット(STLフォーマット)に変換する。STLフォーマットは3次元自由局面を三角パッチの集合体で近似する方式で、CADから造形装置にデータを渡す際に広く用いられている。次いで、光造形装置内での配置や積層方向を決定して、前記物品データを所定の

図-1 光造形の原理

間隔にスライスしてその断面のデータを作る。この断面データに基づいて液状の光硬化性樹脂の表面をレーザ光で走査し、被照射部分の樹脂を硬化させて断面データに対応する樹脂硬化層を形成させる。この工程を繰り返して樹脂硬化層を次々と積層することにより、設計したとおりの3次元立体物の形状モデルを得る[5-7]。
光造形システムでは、Arレーザまたは半導体励起固体レーザを紫外光発生源に用い、機械シャッター、光変調器(AOM)、光学レンズを通し、X方向Y方向の2つのスキャナミラーで照射位置を制御しながら光硬化性樹脂容器中のテーブル上に光照射する。レーザ、AOM、スキャナーミラーはコンピュータでコントロールし、テーブルもそれに伴い制御する。そして、紫外光により光硬化性樹脂薄膜層を断面データに基づいて一層ずつ硬化させる[9,10]。

3. 光造形用樹脂
 光造形法のキーポイントはその樹脂の性能にあるといっても過言ではない 。ユーザは造形により得られる樹脂硬化物を利用するため、その物性や性質が最も重要である。
 光造形で用いられる液状光硬化性樹脂は、硬化の反応機構により大別して二つに分類される。一つはラジカル重合反応タイプであり、もう一つはカチオン重合反応タイプである。代表的な光硬化性樹脂として前者はウレタンアクリレート系があり、後者はエポキシ系がある [6,7,10]。
 ウレタンアクリレート系樹脂ではラジカル反応で進行するため、一般的に反応速度は大きいが重合がランダム性になりやすいことより、造形物がソリや精度の点から不利と言われている。しかし、ウレタン骨格はイソシアネート成分とアルコール成分とから容易に新しいものが合成可能であり、硬化後は高分子主鎖中のウレタン基により分子間凝集力の大きいものが得られやすいことから、高分子主鎖中にポリエ−テル基を有するエポキシ系樹脂に比べ機械特性、および熱的特性は有利と考えられる。
 エポキシ化合物の重合反応はスルホニウム塩等の光分解から誘導されるカチオン(プロトン)により開始される。このカチオン重合反応は、重合速度は劣るが、逐次重合性の要素を持っており、得られる重合硬化物の収縮歪みが小さな傾向がみられる。そのため、造形物の寸法精度が有利であると信じられ、最近特に広く用いられるようになった。しかし、エポキシ系樹脂の場合には選択できるエポキシ化合物の数が極端に制限されるとともに、人体への安全性や重合速度の点から使用できる主剤は特定の脂環族エポキシ化合物にほとんど限定されている。
 光造形用樹脂はエポキシ系が主流になりつつあるのが現状であるが、ウレタンアクリレ−ト系の樹脂は、先に述べたように剤の選択範囲がエポキシ系樹脂に比較して圧倒的に大きく、機能性を要求されることが益々強くなることから今後の開発次第では立場が逆転することもあり得る。

3.1 光造形用樹脂の動向
 3次元光造形システムの展開が急速に拡大するに連れて、新規樹脂開発の重要性が再認識され、各社での開発も活発になってきた。モデル用樹脂として、汎用プラスチックスであるABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)樹脂を一つの目標として開発が進められている。このABS樹脂は物性のバランスがとれていてかつ成形性もよく安価なため広く利用されている。樹脂の重要性が認識され開発者がかなりな精力を注入しているにもかかわらず、市場にある光硬化性樹脂の硬化物の性能はいまだ目標のABS樹脂には到達していないのが現状である。
 また、最近では、モデル用樹脂がエポキシ系樹脂が中心であることより概して脆いため、光造形物は「壊れやすい」という通説が出来てしまっている。これをうち破るために靭性に優れたものを積極的に提供しようとする動きが各社から出てきた。この靭性はポリプロピレン(PP)を一つの手本としている。旭電化工業からはHS-681、DSM-SOMOS社からはSOMOS8100(JSR社からもおなじものがSCR-8100シリーズ)、ごく最近、Vantico(旧チバ・スペシャルティー・ケミカルズ)からSOMOS8100シリーズと外観が非常によく似たSL-7540が出た。これらは全てエポキシ系であり、靭性の観点からみるとまだPPの特性には至っていない。これらに対して我々はウレタンアクリレート系のTSR-1938Mを最近市場に投入した8)。このものはエポキシでは達成し難い、強度と伸度とを兼ね備えたものであり、PP の物性をほぼ満足しており、今後の発展が期待される。

4. 光造形法の役割
 この光造形法の果たす役割は、a. デザイン評価(形状確認)や 機能評価、b. 真空注型や鋳造用のマスターモデル、c. 実部品製造の試み、d. 医療分野、e. その他などが挙げられる。以下、これら用途について述べる。

4.1 デザイン評価(形状確認)及び機能評価
 光造形システムはもともと3次元CADのプリンター的発想から生まれた。そのために、形状確認用のモデルを得ることを主な目的として出発した。製造担当者にとって自分の作る製品あるいは部品のイメージを正確に把握することは非常に重要なことである。特に形状が複雑になればなるほど理解に時間がかかり製作ミスの可能性も多くなる。
 3次元立体モデルを造形することによって、設計した製品のデザインが期待したものであるかどうか実際に手にとって検討可能であり、他者の評価を受けることも可能である。そして、検討結果を設計にフィードバックすることもできる。従来の貼り合わせや、機械加工と異なり3次元CADと直接結びついているため、複雑な形状でも簡単に造形でき、正確に形状を確認することが可能である。また、立体モデルをCADデータまたは、図面と共に渡すことにより、金型の製作ミスを防止してロスの低減と最適設計によるコスト削減が可能である。さらに、最終製品製造担当者の理解を助け製造のための工程でのミスを防ぐことができ、製品化までの時間の低減とロスの低減が可能である。
 光造形モデルは、部品の組付や嵌合のチェックに利用したり、機構やシミュレーション実験などの機能的な検討が可能となる。機能評価を行うことにより、設計ミスを防ぎ、より適切な設計が可能となる。検討結果は製造設計に容易にフィードバック可能である。
 また、デザイン分野では造形モデルがデザイナーの感性を確認して新しい創造へ発展するものと思われる。山梨のメイコー社( http://www.meiko-inc.co.jp)を中心に宝飾関係でのデザイン検証用途も盛んである。

4.2 真空注型や鋳造用のマスターモデル
 3次元CADでデザイン・設計したモデルを、10数個直ちに入手したいときなどにはウレタン樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いたレプリカの作成が行われている。このときのマスターモデルとして光造形で作成したモデルが有効に利用できる。光造形で得たモデルを用い、シリコーン樹脂で母型を作り、この母型に前記熱硬化性樹脂を流し込みレプリカを作成するのである。この場合、一つの母型から10〜20個作成できるので、母型を10個用意すれば100〜200個のレプリカの作成が理論上可能となる[ 7]。しかし、レプリカをとるのに1〜2時間程度時間がかかるため、沢山とることはかなり手間がかかる。また、出来るレプリカは商品とは異なるため最終的な機能試験などは出来ないことになる。
 他方、光造形モデルをロストワックス法のワックスの代替モデルとして使用することによりワックス作成用の金型が不要となるために、大幅な工数の削減が可能となる。しかし、光造形モデルでは消失の際に残さが少量残ってしまうため品質の低下を招くことがある。そのため、本格的な実用化には従来のワックスと同様に完璧に消失する特性を持つ樹脂の出現が嘱望されている。その他、鋳造のためのマスターモデルや砂型用のマスターモデルなど木型の代替としても実用化されている。

4.3. 実部品製造の試み
 最近、光造形システム用の樹脂が、目的を持って開発されるようになってきた。その一つは、我々が提案した射出成形用の樹脂TSR-750シリーズであり、耐熱モデル用の樹脂TSR-900シリーズである[9,10]。
 この、目的志向をさらに押し進め、光造形システムでなければできないような複雑なモデルを造形し、実用的な部品に用いようとする試みが始まった。これは、光造形によりCADデータから直接得られるモデルを実際の製品にしようとするものである。すなわち、光造形システムを製造機に位置づけようとするものである。
 現状では、光造形で得られる硬化物は必ずしも所望の性能を有していない場合が多いが、我々が開発したイミド系樹脂は、この目的のための第一歩といえよう。日立製作所の三宅らは水質試験器の心臓部であるマニュホールド(図-2)に光造形品が使用できることを最近発表した[12]。光造形品を用いることにより従来法に比較してサイズを約1/120にした水質試験器を商品化した。この装置は同時に価格も数分の1以下になっている。このように、光造形品を直接部品に用いることにより今まででは考えられなかったような技術革新をもたらす。光造形を代表されるラピットプロトタイピング(RP)システムはやがてラピッドプロダクション(RP)システムとして使われることと思っている。我々は、今後、更にイミド本来の性能である耐熱性も優れた材料を提供すべく、新規原料のデザイン及び合成検討を行っている。これらの材料が比較的安価に入手できるようになるとイミド系樹脂は光造形システムが製造機に位置づけられるような役割を果たすものと確信している[9]。

4.4 医療分野
 製造業以外の分野でも光造形システムの利用が進められつつある。MRI(磁気共鳴映像法)やCT(コンピューター断層撮影)スキャンで得られた断層データをもとに患部のモデル(図-3参照)を作成することにより、医者は患者を実際の診察以上によく見ることができるので、腫瘍や骨の異常、その他の病気を見つけやすくなる。そして、難しい手術の際の手術方法の検討、
 

図-2 水質試験機のマニュホールド[12]
図-3 CTより再現した人の頭部分

削除部分の検討、手術手順のシミュレーションなどに利用することにより高度な医療行為が可能になる。慶応大学医学部形成外科学教室の小林正弘専任講師と同大学環境情報学部の千代倉教授のグループの形成外科での光造形の応用研究[13]、通産省機械技術研究所の谷川らのグループの人の頭のファントムの解析[14]などが挙げられる。また、歯科医療分野でも光造形などを用いた手術シミュレーション等に活発に検討されてきた[15]。光造形法を医療検討に用いることが保険で認定されれば、高度な医療行為のためにさらに利用が進むものと考えられる。ベルギーのマテリアライズ社(http://biomedical.materialise.com)はこれらのソフトウエアの開発を積極的に進めている。
 セントラル・フロリダ大学のHosni教授のグループでは、MRIやCTスキャンの画像から光造形モデルを利用して人工関節などの研究を進めている。一方、人工骨などのモデルとしてハイドロキシアパタイトを含む光硬化性樹脂の検討が、米国ミシガン大学のHalloran教授らのグループで進められている[16]。
 さらには、IT技術と総合的に結びついた遠隔医療支援システムも検討され、今後この分野の発展も見過ごせない[13]。しかし、この領域がさらに発展するためには、X線技師や医師がオペレータに頼らず直接操作できるような簡便な造形システムの出現が望まれる。

4.5 その他
 地形や建物のモデルを作成し、景観の確認、ビル風などのシミュレーションが可能となる。ただ、現状ではどの程度利用されているか不明である。
 マイクロマシンなどへの光造形の適応が検討され、大学を中心に研究が進められている。その他、我々が予期していないような利用方法もかなりあるものと推定され、これらが浮上してくると思わぬ方面に発展していく可能性を秘めており、この技術の応用分野もますます広がっていくものと期待されている。

5. 今後の展望
光造形法は、装置・樹脂ともに改善の余地を多分に含んでいるが、産業界をはじめ、医療分野などに新たな技術革新をもたらす技術と考えられている。
 近い将来では、機能性の追求がターゲットの一つと考えている。光造形システムが発展するためには、機能性樹脂の性能を向上させ製造機に位置づけられるための材料にすることが重要であると考える。そのためには、ユーザの要望に応えるための絶え間ない努力が必要であろう。しかし、光造形は大きなポテンシャルを秘めており、IT革命の真の担い手として発展していくと考えている。
この光造形法の本来の意義は必要な形態のモデルや型を、極めて短時間で早く手に入れることができるところにある。今後3次元CADがパソコン上でワープロを使うように誰でも当たり前のように使われるようになっていき、それぞれの造形方式が改良されていくにつれ 、光造形システムもいずれCADのアウトプットとして、極当たり前のように使われる時代がまもなく訪れると思われる。
 カラーレーザプリンタを共有しているように、グループで1台の造形機である3次元プリンターをネットワークで共有する日も近い。CADの出力としてCADの画面上から「3D Print」というボタンを押せば、1時間程すると造形物が3次元プリンターの出口から直ちに使用できる形で出てくることが想像される。この造形物をエンジニアは、手にとって眺めながら次のデザインを考えるであろうし、外科医師は手術の方法をあれこれ思いめぐらせるものと推定している。
 
参考文献
1)  小玉秀男: " 3次元情報の表示法としての立体形状自動作成法", 電子通信学会論文誌, J64-C, No. 4, (1981) 237-241, 2)  H. Kodama: "Automatic Method for Fabricating a Three-dimensional Plastic Model with Photo-hardening Polymer", Rev. Sci. Instrum., 52, No.11, (1981) 1770-1773
3)  中井孝、丸谷洋二: "レーザによる立体形状の創成", 昭59電気関係学会関西連合大会, G10-20 (神戸, 1984)
4)  C. Hull: " Apparatus for production of three-dimensional objects by stereolithography", U.S. Patent No. 4,575,330 (1986)
5)  P. F. Jacobs: "Rapid Prototyping & Manufacturing, Fundamental of Stereolithography", (SME, 1992)
6)  丸谷洋二、大川和夫、早野誠治、斉藤直一郎、中井孝: "光造形法-レーザによる3次元プロッタ", (日刊工業新聞社, 1990)
7)  中川威雄、丸谷洋二編: "積層造形システム - 三次元コピー技術の新展開", (工業調査会, 1996)
8) T. Wohlers: "Wohlers Report 2000", (Wohlers Associates, Fort Collins, Colorado, 2000)
9) 萩原恒夫: "光造形システム、現状と今後の展開", JETI, 48 No. 10 (2000) 70-74
10) 萩原恒夫: "光造形システム、現状と今後の展開", JETI, 48 No. 10 (2000) 90-96
11)  田村順一、萩原恒夫: "光造形法の樹脂開発からみた今後の展望", オプトロニクス, No. 4, (1996) 119-125
12) 三宅亮、榎英雄、森貞雄、石原民雄: "マイクロファブリケーション技術を応用した小型水質計", ケミカルセンサ研究会 , (電気学会, 東京2000年4月28日) CHS-00-7
13) M. Kobayashi, T. Nakajima, T. Kaneko and H. Chiyokura: "Application of Stereolithography in the Field of Plastic Surgery", 8th International Rapid Prototyping Symposium, Kamata, Tokyo (June, 2000), pp. 294-295,.
14) Y. Tanikawa, D. Imai, K. Tanaka, H. Kawamura and Y. Yamada: " Fabrication of Dynamic Human Head Phantom and Time-resolved Measurement", ibid., Kamata, Tokyo (June, 2000), pp. 296-301.
15) Y. Morita, T. Noikura, R. Petzold, M. Blank, W. Kalender, S. Hiura, A. Okubo, K. Sugihara, T. Kamiinaba and Y. Izumi, "Rapid Prototyping for Dentistry in Japan", ibid., Kamata, Tokyo (June, 2000), pp. 282-287.
16) G. A. Brady and J.W. Halloran: J. Mater. Sci., 33, 4551 (1998)

本総説は「光学」30巻4号(2001年)に掲載されたものである。