本ページは1999年5月のRPシンポジウムに発表したものである。
我々は、光造形システムが更なる飛躍を遂げ、真に産業界に貢献するためには、形状確認モデル用樹脂の改善に留まらず、機能を有する樹脂を開発することが重要であると信じて検討を進めている。1994年には、フィラー強化樹脂TSR-752により作成した樹脂型は、ABS等の汎用プラスチックスが100〜200個程度射出成形可能であることを証明した。
1998年には、耐熱性に優れたモデル用樹脂TSR-920を開発し、その可能性を世に問うた。また、新しい材料の採用に積極的に取り組み、高精度モデル用であるエポキシ系樹脂TSR-810ではいち早くオキセタン化合物を採用してそのポテンシャルを示してきた。
本発表では、耐熱性をさらに改善したTSR-930、より使いやすくなったTSR-754、およびスーパーエンジニアリングプラスチックの性能を発揮するTSR-1970の紹介を中心に行う。また、光造形では全く新しい材料であるイミド系化合物を採用した樹脂TSR-2090Xについても言及する。
1 透明・耐熱樹脂TSR-930
形状確認モデル用の樹脂の物性は未だABS樹脂に及ばない。機能性の高いモデルを得るためにはエンジニアリングあるいは、スーパーエンジニアリングプラスチックと同等の物性を有する材料の開発がポイントとなる。しかし、得られる造形物の物性が全ての項目に亘って満足しなくても、目的とする機能試験に使用可能な物性を有すればその効果は大きいと考える。かかる観点から、我々は、透明でかつ耐熱性の優れた光造形用樹脂TSR-910を開発し、一部ユーザーによる評価を受けてきた。
昨年度に、TSR-910のユーザ評価を元に改良したTSR-920を上市した。さらに、この耐熱性と物性の向上を目指し、新規なTSR-930の開発に成功した。これらの耐熱樹脂の物性の概要を表-1に示す。これらは、機能部品の試作、機能試験モデルとして有用と考えている。この樹脂が改良を重ねて全ての項目に亘ってエンジニアリングプラスチックスの領域の物性を満足すれば、もはや形状確認用はおろか機構部品までの広い応用範囲で使用可能な樹脂として位置づけられると考えている。
2. 射出成形用金型樹脂TSR-754
我々は、射出成形用樹脂金型を直接光造形法で作製する方法を、フィラー強化樹脂TSR-752で提案し、光造形システムの新たな境地を切り開いてきた。汎用樹脂であるABS樹脂、ポリカーボネート樹脂などを数100個〜200個程度成形する樹脂金型を提供可能なため、新しい工法として注目されている。さらに、エンジニアリングプラスチックスまたはス−パエンジニアリングプラスチックスの射出成型を可能とする樹脂型用として高荷重熱変形温度(HDT)が250℃以上を有するTSR-753を上市してきた。TSR-75シリ−ズはウレタンアクリレート系ベ−ス樹脂に特殊なフィラ−を配合して機能性を発現させた樹脂である。今回、TSR-753の性能はそのままで、より使いやすさを求めて、TSR-754を開発した(表-2)。この樹脂の特徴は、低粘度化と沈降性の改善、及び造形物表面の滑らかさにある。粘度は約半分に、沈降性は1/3に改善されている。このため、日々の樹脂管理を容易とし、造形時のコーティング性を向上させている。また、フィラーのサイズを変更したことより、表面平滑性が向上し、型材としての後処理や成形性を向上させている。この樹脂を用いることによってフィラー入りPBT、PPS、ナイロン46等のエンジニアリングプラスチックス、さらにはPEEK、アミドイミド樹脂までのス−パエンジニアリングプラスチックスの射出成形を可能となる。
3. スーパーエンジニアリング樹脂TSR-1970
フィラー入りスーパーエンジニアリング樹脂(コンパウンド)と同等な性能を有するフィラー強化光造形用樹脂(TSR-1970)の開発にも成功している(表-2)。表-3からも分かるように代表的なAMODEL(帝人アモコ製)と同等以上の機械物性を有している。曲げ弾性率が鋼のそれに匹敵し、また、熱線膨張係数がきわめて小さいことより、フィラー入りのスーパーエンジニアリング樹脂を用いる分野で切削加工が困難な部品などの試作に大いに活躍できるものと期待している。また、TSR-75シリーズと同様な型材として用いた場合はより難しい材料の成形が可能となる。
TSR-1970はTSR75シリ−ズと同一用途展開を図ると共に、ミルドファイハ−強化ス−パ−エンプラ樹脂用途への展開も行う。
表-1 TSR-900シリーズの物性
銘柄 |
TSR-920 |
TSR-930 |
ポリアセタール |
|
ベース樹脂 |
ウレタンアクリレート |
ウレタンアクリレート |
||
粘度(cps, 25℃) |
570 |
1800 |
||
硬 化 物 |
引っ張り強度 (kg/mm^2) |
7.8 |
8.4 |
6.2 - 7.2 |
外観 |
無色透明 |
無色透明 |
表-2 TSR-75シリーズ, TSR-1970の物性
銘柄 |
TSR-752 |
TSR-753 |
TSR-754 |
TSR-1970 |
|
ベース樹脂 |
ウレタンアクリレート |
ウレタンアクリレート |
ウレタンアクリレート |
ウレタンアクリレート |
|
粘度(cps, 25℃) |
49,000 |
40,000 |
25,000 |
56,000 |
|
硬 |
引っ張り強度 (kg/mm^2) |
7.1 |
8.5 |
9.1 |
12.3 |
外観 |
白色不透明 |
白色不透明 |
白色不透明 |
灰白色 |
表-3 TSR-1970のコンパウンドとの物性比較
銘柄 |
TSR-1970 |
TORON* |
AMODEL* |
引っ張り強度 (kg/mm^2) |
12.3 |
11.9 |
21.1 |
4. 実部品作成用樹脂 TSR-2090Xの開発
光造形システムが実部品を作成する製造機となれれば、その市場はいま考えているものとは全く違った様相を呈してくるものと推定される。このときが来ると、光造形システムが新たな契機を迎えるものと考えられる。光造形システムでしか作成できないような部品を作成し、かつその部品が実用に耐える性能を有しているとき、大いに注目されると思われる。現状では、光造形で得られる硬化物は必ずしも所望の性能を有していない。
我々は、このような背景を踏まえ、新規な材料を探索してきた。その結果、イミド系化合物を用いることにより今まで光造形樹脂が有していた問題点がかなり解決できることが分かった。この剤を用いることにより耐水性、耐熱性等が飛躍的に向上する。全く新規な光造形樹脂としてはイミド系樹脂TSR-XXの開発に成功した。我々は、今後イミド系樹脂を中心に光造形システムが製造機に位置づけられるための開発を押し進める。
5. 今後の展開
光造形システムが飛躍的に発展するためには、機能性樹脂の性能向上と併せて、製造装置に位置づけられることが重要であると考える。新しい材料の探索と提案を積極的に行い、ユーザの要望に応えると共に、新しい分野の開拓を積極的に行う。
図-1 各新規開発樹脂の造形例
|
|
|
|
|
|
|
|
本報告は1999年5月27日広島にて開催された、ラピッドプロトシンポジウムの講演要旨である。